■用語(学習の成功と失敗に関わる要因)
報酬reward
ある行為・行動に対して与えられるもので,通常は学習や条件づけなどを促進する目的で与えられる餌,水,物,あるいは賞賛などの社会的かかわりなども含まれる。
ある行動の直後に,あるいはその直前であっても,報酬の与えられた行動は形成されるし増加するが,報酬の与えられなかった行動は少なくなるか消滅してしまうこととなる。
報酬は強化子の一つであり,正と負の強化子がある。新しい行動を行うようになる正の強化子に対して,電撃,嘔吐剤などの刺激は,新しい行動を抑制する負の強化子ということになる。
したがって,正の強化がなされない時,あるいは負の強化がなされた時には罰(punishment)が与えられたことになる。報酬には,餌,水,電撃などの生理的な動因と関わる一次的(生理的・生物的)報酬と,これをもとに積み上げられて形成されると考えられる名誉や賞賛などの社会的報酬がある。さらに,報酬には他から与えられる外発的報酬と自己満足的な内発的報酬とがある。(心理学辞典、有斐閣、1999から抜粋)
■用語(学習する意味の実感、やりがい)
自己効力感self-efficacy
自分が行為の主体であると確信していること,自分の行為について自分がきちんと統制しているという信念,自分が外部からの要請にきちんと対応しているという確信が自己効力感である。
このような自己効力感は,同じくバンデューラによれば,人間の行動の仕方を次の4点で統制している。(1)認知的側面:自分の能力がどれだけあるか,自分の目標を設定する仕方を決定する。(2)動機づけ的側面:その後の結果を予測し,目標の設定を決定する。自己効力感が達成の努力や肯定的な生き方の必要条件になっている。(3)情動的側面:自己効力感は個人的な情動経験の性質や強度,不安や自己統制のあり方を決定する。(4)選択的側面:自己効力感のもてる領域を選んで,そこで挑戦的な生き方を取ろうとする。 自己効力感を発達的視点から捉えることも重要であり,子どもの自己認知の発達水準や,その時の親や教師などとの関わりに応じて,自己効力感の様相は異なってくる。(心理学辞典、有斐閣、1999から抜粋)
動機づけMotivation(学習を支える要因)
生活体の行動を活性化し、その行動をある方向に方向づけ、それによって生活体の状態を変化させる過程全般を動機づけという。生理的動機づけ(食物など)、誘因動機づけ(ポーカーチップなど)、認知的動機づけ(ボランティア活動など)、人間的動機づけ(自己実現など)がある。
■用語(高度な学習を支えるモデル)
行動主義Behaviorism
ワトソンWatson, John
Broadus(1878-1958)の提唱した行動主義は、行動を筋や腺の反射など要素的レベルの反応に分解し、複雑な行動も要素的な刺激(S)と反応(R)の関係に還元して考えることができるというもの。
■用語 (行動を支え宇認知の働きを重視)
新行動主義Behaviorism(★7月10日追加)
トールマンTolman, Edward
Chace(1886-1959)、彼はワトソンの単純なS-R説に対して、SとRを媒介する過程Oを考え、S-O-R説を提唱した。つまり、生活体は盲目的に行動するのではなく、特定の目標にむかって指向的に行動するのであり、生活体に内在するそのような目標や状況の認知をその媒介過程の内容として考える必要があると主張した。トールマンの新行動主義を目的論的行動主義とよぶこともある。トールマンの新行動主義はゲシュタルト心理学の立場にやや近く、最近の認知心理学の立場にも近い。
■ニュースヘッドライン
人工知能 天使か悪魔か 2017
NHK 2017年6月25日
http://www6.nhk.or.jp/special/detail/?aid=20170625
今年春、将棋界の最高位・佐藤天彦名人と最強の人工知能が激突する電王戦2番勝負が行われた。人工知能の前に、これまで屈してきたプロ棋士たち。最後の牙城だった佐藤名人も完膚なきまでに叩きのめされた。もはや人間など敵ではない。人工知能は、モンスターのような進化を遂げている。
人間の知性を越える人工知能が、すでに現実社会に進出している。名古屋のタクシー会社では、客がいる場所を指示する人工知能を導入、客の数を大きく伸ばした。人工知能が、人間を評価するという事態も起こっている。シンガポールのバス会社では、事故を起こす危険性の高い運転手を人工知能が見つけ出す。アメリカでは、過去の膨大な裁判記録を学んだ人工知能が、被告の再犯リスクを予測し、刑期の決定などに関わっている。日本のある企業でも、退職の予兆がある人を、人工知能が事前に察知するというシステムを導入した。
将棋界最高の頭脳・羽生善治が、電王戦2番勝負を読み解いていく。思索は、将棋の盤面にとどまらない。人間を上回る能力を持つ人工知能が社会に進出した今、私たちは、その巨大な存在とどう向き合っていけばいいのだろうか。
■資料(コンピュータによる知能のモデル)
人工知能artificial intelligence ;
AIとは
コンピュータの誕生とともに,知的な振る舞いをコンピュータにさせる科学として,1950年代に登場した研究分野である。コンピュータは,たんなる数値演算ばかりでなく,一連の記号処理(情報処理)が行えることが判明し,そこでその記号処理用のコンピュータ言語を用いたコンピュータ・プログラムによって,知的な振る舞いをさせることがめざされる。
人工知能研究は,コンピュータ・メタファを用いて人間の心の内部過程を解明する認知心理学における情報処理アプローチと関連が深く,それを介して学際科学として誕生した認知科学などとも結びつき,人間理解を進めるのに貢献した。(心理学辞典、有斐閣、1999より抜粋)
■資料(コンピュータによる新世代の学習モデル:21世紀人工知能)
ディープラーニング、深層学習 Deep
Learning
ディープラーニングは、脳の神経回路にヒントを得た「ニューラルネットワーク」をベースにした手法であり、回路の中間部分を多層からなる構成にすることで、データの特徴を多段階でより深く学習します。近年、画期的な学習手法が開発されたことで、データの特徴をより深いレベルで学習することが可能となり、また、コンピュータの処理能力が向上したことで実用的な時間で処理が可能となりました。また機械学習では学習するデータが必要になりますが、大量かつ多様なデータをインターネットで得られるようになったこともディープラーニングの実用化に寄与しています。このような時代背景にともなって技術革新が進んでおり、さまざまな応用が実用化または検討されています。
ディープラーニングを活用すると、コンピュータによる画像や映像、音声の高度な認識ができます。いずれ、人間に近い精度にまで到達することが期待されています。また、他の情報や技術と組み合わせ、言葉や文章の理解、さまざまな予測や分析に応用することも期待されています。
(NTTコムウエアより一部引用)
https://www.nttcom.co.jp/research/keyword/dl/
■ビデオクリップ
人工知能の大革命(NHKサイエンスゼロより、ユーチューブ)
https://www.youtube.com/watch?v=UCs1NKZtlOY
脳の神経ネットワークをモデルにコンピュータが学習する事例を
わかりやすく説明(6分26秒から16分10秒)
■資料(コンピュータのモデを意識した考え方)
認知心理学Cognitive
Psychology
1950年代後半以降に情報科学の影響を受け,人間を一種の高次情報処理システムと見なす人間観に基づき,相互に関連する情報処理系を仮定し,そこにおいて実現される情報処理過程の解明によって,心的活動を理解しようとする心理学の一分野をさす。
観察可能な刺激と反応の関係性を対象とした行動主義を超える脳内過程を重視した新しいモデルを構築しつつある。原点は知覚、記憶、学習、思考などを研究対象とするが、人間の認知の働きを研究対象としてとりあげ、それをコンピューター科学をはじめとする認知科学の枠組みのもとで解明していこうとしている。(心理学辞典、有斐閣、1999から抜粋)
記憶とは
■図 記憶のメカニズムはこちら
■資料(行動を構成する基本データ)
記憶
記憶とは、過去におこった出来事がなんらかの形で頭の中に保持され、ある時間を経過したのちに、それが必要に応じて想起され、なんらかの形で再生される過程と定義される。
記憶のタイプ
は感覚記憶(1−数秒ほど保持される記憶)、短期記憶(working memory、作業記憶)
そして長期記憶が基本となる。感覚記憶や短期記憶(作業記憶)とくらべると、長期記憶における情報貯蔵量は膨大で、保持時間も感覚記憶や短期記憶が秒単位から数分の単位だったのにくらべると、数分から数時間、ときには数十年間にもおよぶ。(心理学辞典、有斐閣、1999から抜粋)
■資料(データの消失・変形)
忘却forgetting
思い出したり意識することができないこと。おもな忘却の理論としては,記憶痕跡の減衰説,干渉説,検索失敗説,抑圧説がある。
記憶痕跡の減衰説は,記憶したものの痕跡が時間経過とともにしだいに消失し思い出すことができなくなるとした(★忘却曲線参照)。
干渉説は,記銘前後になされたさまざまな精神活動の干渉によって記憶は影響を受け,そのため忘却が起こるとする。
検索失敗説は,情報は記憶に貯蔵されたままであるが検索できない状況になったために想起できないとする。
抑圧説は,精神分析の立場から,不愉快な事柄や自我に脅威を与えるような事柄は,意識の世界から無意識の世界へと押し入れられ,再び意識の世界に上ってこないように抑 圧されるとする。
(心理学辞典、有斐閣、1999から抜粋)
■図版
忘却曲線の例は こちら
■日常生活と記憶
1展望記憶prospective
memory
「し忘れ」
これからやろうとしている行為の記憶
前を(pro)見る(spect)ような性質を持つ記憶)、意図の記憶
→居間から台所へ来て冷蔵庫を開けたが、何取りに来たか忘れた
2階あがったが、何をしにきたのかを忘れた
→心理学、認知科学などの分野で研究
2アクションスリップaction
slip
「し間違い」(あっ、しまった)
→うっかりしていた、勘違いした
新宿駅で八王子行きのつもりが東京行きのホームに行ってしまった
出かける時にケータイ電話を忘れた
→人間工学、ヒューマンエラーなどの分野で研究
3「ど忘れ」
おなじみ「知っているはずが思い出せない」
情報検索(呼び出し)が出来ない
→歌手の顔や持ち歌はわかるるけれど名前が出てこない
連想やイメージを使って検索に成功する場合がある
参考書 梅田聡、「あっ、忘れてた」はなぜ起こる、岩波書店、2007